靴にまつわるエッセイ - 日髙竜介(8/12)

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 年々暑くなる日本の夏に、「どう装うか」は誰もが抱える問題であるが、特に男性にとっては頭が痛いことのひとつ。女性と違って、肌を露出したフォーマルな服装というものが存在してこなかった男性にとって、現在でも儀礼上、上着が必要な場面が数多くあるのが事実である。

 私は大学を卒業してから製薬会社に就職をし、3年間毎日、真夏でもスーツを着てネクタイをしながら仕事をしたが、それが1990年代のこと。そして2021年の現在も製薬会社MRのスーツ+ネクタイ+革靴というスタイルは変わっていないようだ。確かに、病院にお邪魔する立場の人間としては、そこに遺族の方がいらっしゃったり、深刻な場面に直面した方々がいらっしゃったりする限り、儀礼としての装いがあってしかるべきだと思う。

 その時の私は幸い、車での移動を常としていたのでまだ汗だくになることはなかったが、電車を使って移動していたらと考えるとぞっとする。それくらい、近年の日本の夏は暑い。

 

確かに男性のスーツ姿は、うまく着こなせば自分自身を実物以上に見せることが可能だし、夏の暑い最中に涼し気にスーツをまとった姿はなかなかに美しいものだ。信頼できる、頼れる印象を与える。

では、昨今人気の薄いコットンやナイロンのペラペラのスーツに白いスニーカーを履いた姿はいかがであろう。時代を反映した雰囲気になるし、リラックスしながらもある程度の儀礼は果たせることから、多くのビジネスマンが愛用しているのを見る。自宅でのテレワーク中に行われるZOOMミーティングに対応するなどというキャッチコピーも何やら魅力的な響きではある。おまけに、現在成功していると言われているIT業界の経営者たちがこぞってそのような格好をしていたら、それが格好良く見えるのは必然と言えばその通り。しかし、そこに儀礼というキーワードはどう見ても潜んではいないように感じる。どうしてかと考えてみるとやはり靴が違うのではないだろうか。時代がいくら変わっても、スニーカーはあくまでもスポーツシューズであり、白色のものならばなおさらだからだ。誕生から100年以上が経ってジーンズがタウンウェアの市民権を得た今でも、儀礼とは遠くかけ離れているように。

 

ドレスコードのあるレストランを調べてみると面白いのだが、多くのそれが男性に向けられている。例えば上着(ジャケット)着用。女性はノースリーブ一枚でも良いのに、男性にのみ最低2枚の上半身ウェア着用を課している。サンダル禁止というレストランもあり、それは男性のサンダルを禁じている。はたまた、短パンお断りというのもあるが、それもやはり男性の短パンのことだ。

そう、古来より、ドレスコードは男性に向けてのみ存在してきた。女性は場の空気を読むのが上手いので必要なかったのか、それとも古来より男性は女性を守りエスコートする側だから、鎧を着て重装備していた昔の名残で厚着をする文化があったのか、とにかく、夏の暑い日に厚着をするのは男性の宿命であり、すべての男性の服装が社会的であった昔からの伝統なのだ。

 

もちろん今の時代、自由に装えるプライベートな休日、それも家族や友人たちとのリラックスした時間なら、何も堅苦しい事を考えて服装を選ぶ必要はない。短パンでも良いし、Tシャツ一枚で何ら問題はない。がしかし、そこが友人の家であろうと、公共の場所であろうと、そこは紛れもなく社会であり、儀礼が不要な空間ではないはずである。自分の家で家族だけなら良いとしても、そこに友人を招くだけでも社会が存在するようになる。そんなときに注意したいのが足元、靴なのだ。スニーカーではなく革靴。スーツ着用時に履くような革靴ではなく、リラックスしたもので良いが、スポーツ用の靴は避けていただきたい。服装や靴でレストランの対応や案内される席が変わるのはよく聞く話である。これは、相手に対するお互いの「敬意」の差であり、敬意には敬意で応えるのが人間なのだ。

 

 

arche アルシュ ZAGAWA ヌバックパンチングシューズ 6万1600円 夏用の靴として1930~40年代に世界的に大流行した涼し気なパンチングシューズを現代的に再構築したフランスの靴。当時は白色も多かったが、白では気恥ずかしいので少しくすんだ感じのベージュというのが現在の気分であろう。このモデルは軽いつくりで底材も柔らかいが、より品よく見せるために内羽根式のデザインにしている。

 

*このエッセイは2021年1月より12月に渡って、クインテッセンス出版の新聞クイントに連載されたものに加筆して掲載しております。

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