靴にまつわるエッセイ - 日髙竜介(6/12)

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 何をやってもうまく行かない、空回りする。誰にでも経験のあることであるが、こんなとき、皆さんはどうされるであろうか。

ただひたすら転機をじっと待つか、トライ&エラーを繰り返しながら手を打ち続けるか、最善の方法はその人の性格やその時の状況によって異なるのであろうが、こんな時には是非、新しい靴を買うことをおすすめしたい。

 

私の父は昭和の時代に建築業を営み、日本の高度成長期とバブルを経験したが、仕事がうまく行かないときには決まって新しい革靴を買って帰って来た。ジンクスのようなものだったのか、それとも単にお洒落に目覚めただけだったのか、亡き今となっては知る由もないのだが、高度成長期における男の革靴事情と、バブルのときのそれとは比べものにならない程の変化があったように記憶している。

「お洒落は足元から」というキャッチコピーがテレビ、ポスター、雑誌のそこかしこで踊り、バブル期の男女がそれに踊らされた。高度成長期の一般的なお父さんの革靴は大半の人が1足を毎日履いて、履きつぶしたらまた新しい靴を履くという状況だったように記憶している。ボロボロの革靴は一生懸命仕事をした証なんていう言葉も聞かれたようだ。そう、当時の革靴は例えるならアルミホイルのような存在で、使い切ったら新たなものを買うというスタイルが一般的だった。

昭和40年代の遊園地の様子を写した古い写真に写るお父さんは、スーツにネクタイ姿であったり、夏の暑い時にはスーツのズボンにランニングシャツ1枚の人もいたりといった有様だ。それが、人々が豊かになるとともに、休日のお出かけにはゴルフ用のポロシャツを着るようになり、ジーンズを穿く世代も出て来て、色柄のシャツが一般に着られるようになる。それでも靴は、スーツに履く黒の革靴を全ての服装に履く向きが大多数ではなかったか。

私の父に関して言えば、まさにバブルに乗って靴の数が増えていったのを記憶している。仕事用の黒い靴以外にゴルフに行くための洒落たスエードやヌバックの靴、夏用の白っぽい靴、コンビの靴、ブルーもあり茶色もあった。建築業ということもあり、仕事に履く靴にはあまり凝らずに、遊び用の靴がどんどん増えていった。もちろん父だけでなく母の靴も同様に増えていったのは言うまでもない。

 

 そんな、日本中の皆の靴がどんどん増えていった時代に放映されたTVドラマ「北の国から」に印象的なシーンがある。先日亡くなられた主人公の田中邦衛さんの元妻、つまりは純と蛍の母(いしだあゆみさん)の葬儀に際し、喪主であり"母さん”の2度目の夫であった伊丹十三さんが、「お葬式にそんな汚い靴を履いていたら母さんが悲しむ」と2人に新しい靴を買ってあげるのだが、父さんが買ってくれた古い靴をその店で捨てられてしまう。母さんの新しい家庭には子供もいて、自分たちの母さんを取られたような気持ちを味わいながら葬儀を過ごした後でその古い靴を必死に探しに行くのだが見つからず、父さんへの思いが溢れて涙が止まらないというシーンだ。

 豊かになって靴が増えても、人間の幸せの本質は変わらず、モノにではなくその思い出に宿る。

 バブル前夜の80年代に人気作詞家として活躍した松本隆氏は、高度成長期に自らが組んでいたバンド、「はっぴぃえんど」でボーカルの故・大滝詠一氏にこう歌わせている。「でも幸せなんて、何を持ってるかじゃない。何を欲しがるかだぜ。」

 

 話を戻そう。靴というのは歩くための道具である。活動的になって行動範囲が広がるとそれに応じて靴が活躍し、自然と靴の数が増えるものだ。一方、新しい靴を買うと、当然その靴を履いてどこかに出かけたくなる。そして、この出掛けるという行為は、人生において本当に尊い価値を持ったものだ。自らの意志で歩みを進めるということは、心持ちを前向きにし、目を開かせ、世界のありのまますべてを見ることに他ならない。

何をやってもうまく行かないときは、じっと待つことも確かに必要だが、内向きに閉じこもり漫然としていたら、いつ訪れるかわからない転機、勝機を逃してしまう。このチャンスを逃さず捕えるには、しかと目を見開き、前向きな姿勢で世界のありようを受け止めていなければならないのだと思う。新型コロナウィルスの影響でこもりがちな日々が続くが、多くの人々が気兼ねなくお気に入りの靴を履いて出掛けられるようになり、多くの人々がそれぞれの勝機をつかめるようになることを切に願う。

 

 

Liberato リベラート 畳インソールコインローファーミュール 32,780(税込み)

日本の部屋から街へ、素足のまま連れて行ってくれる新進気鋭ドメスティックブランドの新作。所有すれば、履いてそのまま街へ出掛けたくなること間違いなしの1足。「ツッカケ」として、ドライビングシューズ替わりとして、夏のサンダル替わりとして、1年を通して重宝する事だろう。

 

*このエッセイは2021年1月より12月に渡って、クインテッセンス出版の新聞クイントに連載されたものに加筆して掲載しております。

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