靴にまつわるエッセイ - 日髙竜介(1/12)

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 「あー、本日は晴天なり、本日は晴天なり。」 誰もが聞いたことのある言葉、運動会が始まる前に学校の先生がマイクに向かって言っていたのを記憶している。なぜマイクテストに使う言葉が「本日は晴天なり」なのか考えたことがある人は少ないかもしれないが、これは英語の、”It’s fine today.” の直訳である。マイクチェックにおいて重要な無声音、「ツ」「フ」「トゥ」の音が入る「イッツ・ファイン・トゥデイ」というセンテンスを使うことから来ている。つまり、日本語訳の文章はマイクチェックとしては無意味極まりない文言なのである。

 

 私はいわゆる革靴というものにまつわる仕事に30年近く携わってきたが、この身を置いてきたファッションの世界では、いま大きな変革期を迎えている。具体的には、「受信」から「発信」への変革である。かつてインターネットの無かった時代には、情報を探そうとすればするほど、「受信」の姿勢になる。自分の嗜好するものの歴史が欧米にしかないから、必然的に欧米をカッコ良いと感じ、そのスタイルを無条件に模倣することになっていたのだ。その意味、本質を理解するところまで行かず、ただただ形を模倣する、そう、先のマイクチェックにおける言葉のように。

 靴の先進国であるヨーロッパとアメリカ、特に1980年代までは圧倒的にアメリカからの情報によって、日本の靴文化は醸成されてきた。いわく、アイビーリーグの大学生がローファーを履いてた、ハリウッドの俳優がウィングチップで銀幕に登場、スポーティな装いでは白い靴を履く云々。メーカー、小売店、そしてメディアはそれらを受信していれば良かった。皆がそれらの情報を有難く「受信」し、模倣してきたのだ。

 

 受信型のビジネスは弱い。結果が悪かった場合にその原因を外的要因に求めがちになり、改善へと向かいにくい。対して発信型のビジネスは敗因を自分の中に探し、結果次への対策が整うからだ。2020年のプロ野球日本シリーズでソフトバンクが巨人に圧勝した要因に、両チームの野球の違いを「受信型」と「発信型」と分析する向きも多い。従来の日本プロ野球の在り方を踏襲している巨人が受信型、自ら考え行動に移す新しい野球のソフトバンクが発信型と。

 内需の先細りが確実な今後の日本のファッション業界は、この「発信型」のビジネスが不可欠であり、事実多くのメーカーやデザイナーが国内はもちろん、世界に向けてアイデンティティを発信し始めている。高級な革靴もしかり、アジアだけでなく本場の欧米に向けて輸出をするところまで来ている。

 

 模倣で始まった日本の革靴文化ではあったが、時と共に、そして経済発展と共に、日本独自のアレンジが加えられてきた。その最たるものがラバーソールのドレスシューズであろう。元来、フォーマルな装いには革底の靴を履くのが常識であった欧米では、その種の需要もなく、ほとんど存在すらしていなかったようである。それが日本から欧米に発注され、それを見た世界中のバイヤーが買い付けることで、いまや世界中で愛用されているのを見ると、受信の蓄積が発信を生むのだという事を再認識する。自分たちが履きたい!という欲求の発露が発信となり、我々の明るい未来を形づくることを信じている。

 

Oriental オリエンタル JOSEPH 42,900円(税込)

着脱の多い日本だからこそ生まれたスリップオンタイプのシングルモンクストラップ。スーツにも履けるほどドレッシーなのにローファーのように履ける。しかもラバーソールで全天候型、万能の1足。

 

*このエッセイは2021年1月より12月に渡って、クインテッセンス出版の新聞クイントに連載されたものに加筆して掲載しております。

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