本日6月1日(火)より、以前より弊社、GINZA SIX店でお取り扱いをしていたコンフォートシューズブランドのCOMFORMA(コンフォルマ 以下、コンフォルマ)。オンラインショップでの取り扱いが決定となり、今回ワールドフットウェアギャラリースタッフ佐藤が取材に行ってまいりました。
今回の取材目的はコンフォルマブランドの理解の深化。
コンフォルマの由来はCOMFORT(快適)とFORMA(形)イタリア語を組み合わせた造語との事。
ただし、ブランド名にあるような、ただのコンフォートシューズブランドではありません。
「そういう謳い文句は信じられないんです」
熟練の職人技、長年の経験から生み出される味わい、伝統の製法、絞りこまれた土踏まずのウエスト、ハンドワークで生まれる独特な雰囲気…
「革靴の世界ってこういう謳い文句ありますよね?買い物したくなるような、させるような。私はこういった言葉をどうも信じられないんですよ」。
こう切り出したのは、コンフォルマの製作指揮を一貫している松尾耕一氏。
「革」を素材に、「靴」を作っている松尾氏。私たち取材班は松尾氏から最初その言葉を聞いた時、少々驚いてしまいました。そして続けてこう語ります。
「意外でしょ?作り手側の人間がこんなことをざっくばらんに言うのは、正直珍しい、いえ、ないんじゃないかと思います。でもね、私はもともとドレスシューズに憧れてこの世界の門を叩いた人間なんですよ」
ハッキリ言い切るその口調は強い。それでいて意外にもキャリアのスタートはドレスシューズにあると言う…。果たして言葉の裏にある想い、そして確信はいったい何なのでしょうか。
ドレスシューズへの憧れから靴の本質を追求する
「例えばJMウエストンの靴ってよく考えられてますよね~。あのウエストンの靴って、履き口のラインが特徴的で、踵のトップラインと綺麗にラインが繋がっているんですよ。そのラインを出すには、踵を低く作らなければならないんですけど、あれは真似しようと思ってもなかなか上手くできないんですよ。優秀なパタンナーが相当に考えて、作り出された靴であるということを、作り手の目線からすごく感じます」
マスク越しにもわかる満面の笑みで、ドレスシューズを語る松尾さん。元々は靴の中でも、ドレスシューズに憧れ、バンタンデザイン研究所を卒業すると革靴の世界に入られました。
「さっき言いましたよね、伝統の技法、卓越の職人技というような謳い文句が信じられない、って。でもね、そういう世界観が魅力的なのは十分わかりますよ。だって私はもともとドレスシューズがやりたくて、革靴の世界に入った人間ですから。それは私の素地にあるわけです。その世界観を否定する気も毛頭ありません。さっき言ったJMウエストンに関していえば、パリの顧客名簿に載るほどシャンゼリゼ通りの店で買いましたね。グレンソンやチャーチといったイギリス靴も買いましたし。今じゃ考えにくいかもしれませんけど、丸井って若者向けの店って感じではなくて、ああいうところにもグレンソンとか置いてあったんですよ…。チャーチでいうと、クレープソールのフルブローグとチャッカブーツ(※バーウッドとライダー)なんかも好きですよ。グッドイヤーの硬さも和らぎますし、よく考えられた靴だと思います。」
松尾さんはこの道に入って40年近くになる、プロフェッショナル。もともとはドレスシューズに憧れてこの世界に入ったというだけあって、ドレスシューズシーンにも精通しています。しかし、続けてこう話します。
「でもね、そういうブランドを観ていると「変わってないな~」と思うわけですね。伝統の技法とか革底など。確かに革底っていうだけでなんか背筋も伸びますし、その世界観に痺れますど、使いにくい面がありますよね?気が付いたらつま先は削れてしまうし、メンテナンス代もかかります。路面が濡れていれば滑ってしまう。
ドレスシューズの練りコルクが足形に馴染んでいくのだって、時間がかかるわけですよね。
そういう伝統の技法だって、改良していくべき点はあるはずです。より良くできる方法に。靴は工業製品ですから、時代が変わればそれに合わせて変化するのが必然だと私は思います。」
このように考えるようになったきっかけは、「ドイツ式の靴の考え方」との出会いであったと松尾さんは語ります。
「20代半ば、仕事の関係で、コンフォートシューズと出会いました。再三申し上げますけれど、元はJMウエストンなどに代表されるようなドレスシューズに憧れて業界に入った人間ですから、新鮮な出会いでした。コンフォートシューズ、オーソペディックシューズの考えが世界で一番進んでいるのは、皆さんもご存じかと思いますがドイツです。ドイツでは国がきちんと職人を育て上げる社会構造が出来上がっています。靴職人も国家資格があって、何種類かの部門に分かれていますが、整形外科靴の上級マイスターになるには最短で9年かかるんです。とても奥深い世界で、一朝一夕で作られるものではありません。」
木型は足だ
コンフォートシューズに代表されるドイツの考え方が、松尾さんのドレスシューズに傾倒していた考えに変化をもたらしました。
「ドイツでは『木型は足だ』と言われています。でも、それって改めてごく自然な考えですよね?だって靴に入れるのは、人間の足ですから。人間の足に合っていないものを靴として作るのは自然の摂理からしてもおかしいはずなんです。『靴は履き心地が良くなければならない』これは多分人間誰しもが思うことなんです。ということは、その原理原則を無視した靴はきっとおかしいものなのはずですよね?そう思い始めたころから、ドレスシューズのデザイン優先の考えが、良い考えだと自分の場合は思えなくなったんです。
もちろんその価値観を理解していますが…。だから僕は、『松尾さんの靴ってめちゃくちゃカッコいいけど、本当に履き心地悪いんだよね~』と言われたとしたらすごくショックですし、そう言われないような靴を作りたいと思ったんです。でもドイツの靴って皆さんなんとなくイメージがおありだと思いますが、あんまりカッコよくないんですよね(笑)
ちなみにですけれど、30年以上前はヨーロッパの蚤の市で、古いジョンロブ・ロンドンのビスポークシューズなんかもよく売りに出されていて、それを買い集めては構造がどうなっているのかを分解して研究しましたよ。するとですね、ドイツのコンフォートシューズのように、例えば中底なんかが踏まずをサポートするように盛り上がっていたりなど、きちんと理にかなった構造になっているんです。もともとロブ・ロンドンのようなところは足が悪い方などにも向けて作っていたメーカーですからね。それを知ったとき思いましたよ。ドレスシューズブランドでも、その最高峰はやはり人の足に忠実である、と。
履き心地の面も妥協せず作られた靴は、イギリスであろうとドイツであろうと人の足に忠実なつくりになっているんですよ。」
靴の本質ってなんだろう
さらに松尾さんは靴の本質を突き詰めていきます。
「靴は履きやすくなければならない、でも履くからにはカッコよくもなければならない。そして木型は足だ。そして品質は一定でなければならない。この原理原則の考えの融合する点がレザースニーカーだったというわけです。革質がいい、職人がいい、細かい作りこみがいい、それは確かに大切な点なのですが、靴の本質を俯瞰してみたときに、靴を形成するほんの一部なわけです。だから、もっと靴の本質を考え抜いて、この本質・原理原則に沿った靴を作っていきたいと思っています。」
工業製品としてこんなにいい加減な管理をしているモノって、靴だけじゃないですか。
靴の本質をとらえ、原理原則に沿った靴を作ることを信条とする松尾さんは、コンフォルマの靴の製品設計・工程設計の全てを手掛けます。
「靴も工業製品である以上、均一な品質でないといけないんです。パソコンも、冷蔵庫も、冷凍食品もなんでもきちんと厳格な規格があって、それを守って作っているじゃないですか。『このパソコンはAさんが作った製品だから使い心地が良いな~』なんてことになったら、これは大変なことですよ!?(笑)
でも、なぜか不思議なことに革靴に関しては、そういう考えがほとんどないですよね?革が天然のもので個体差があるから吊りこんだ後の踵の形状が違う?熟練の職人だから綺麗に仕上がる、中堅の職人は綺麗に仕上がらない?そんなこと、僕から言わせれば、ただの手抜きです。もちろん「熟練の職人の技・腕」は靴を作っていくうえで重要な要素の一つです。それは当然です。ですから、職人技を決してそれをないがしろにしているということではなく、何度も言うように、靴の本質を形成する中のあくまで一部なんだよ、ということです。
コンフォルマの靴は全て厳格な基準があり、きちんと工程どおりに踏まないと絶対に作ることができないように、僕が工程設計もそういう風につくりあげています。
さっき言った踵の形状に関しては、コンフォルマでも非常に重要視しているところですが、これも靴製造の世界ではきちんと製造工程のスタンダードというのが、世の中にはあるんですよ?
そもそもラストを抜いた後に、革が変形してラストの形状から遠のくのであれば、その木型の良さをはなから発揮できていないということじゃないですか。踵のホールド力というのは、履き心地を大きく左右する重要なパートです。
でも、僭越ながら私の長年の革靴制作に携わってきたキャリアを通して、市場に出ている靴をみると、残念ながら、多くの靴はそのようになっていない。職人の熟練度に任せたりして、その工程を職人の技量に任せて、管理していないだけです。
そもそも手抜きというか、そういった発想すらも世の中ほとんどのメーカーではないと思います。
たぶんよそのメーカーさんにこの話をしても、『はあ、そこまでしてるんですか』となるのがせいぜいじゃないでしょうか。
コンフォルマでは、綺麗なラストに釣込まれたときそのままの絞り込まれた革の状態になっています。これもきちんと吊りこむ順番などの工程設計、木型の設計などを怠らなければ、絶対にラストの形状を保ったままの状態に革靴は作ることができます。
機械吊りだから、手吊りだからとか、機械ではできない、手作業だからできるということではありません。機械だろうと手作業だろうと、それぞれにスタンダードなやり方があって、それを忠実に守れば美しく履き心地の良い靴は作れます。それを職人各々のやり方に任せてしまうと、途端に全てが崩れてしまいます。私はこういう靴を作るのは絶対に嫌なんです。なんでもそうですけど、基本と原理原則は守らなければなりません。これが冒頭に話した『職人技』とか『伝統の技法』という謳い文句を信じないといった理由です」
そう語る、松尾氏と一緒に工場内をスタッフが見学させていただくと、目についたのは、釣り込みの見本がぶら下がっていました。
ついつい、松尾氏が語るヒールカップの形状に目が行ってしまいましたが、目の付け所はそこではないと語ります。
餃子屋だってもっとちゃんと作ってるよ、って。
「コンフォルマでは、これまで何百万足の靴を生産してきた実績とノウハウから、日本人の足に合った独自の木型を自ら開発しています。職人の感覚や経験則だけに頼るのではなく、木型や型紙を数値で管理することで、均質的な履き心地を実現しています。工業製品ですから、そこはもう徹底していますよ。
写真は釣り込みの完成品
この釣り込み見本はですね、ヒールカップを見るんじゃないです。裏側の釣り込みシロを見るんです。きちんと釣り込む個所も順番通りに。これもきちんと釣り込む個所の順番もあるんです。原理原則が。そして、ちゃんと決められたとおりの分、釣り込めば自然とヒールカップはラストに沿いますよ。それはそうですよね。ここを引っ張れば自然とヒールカップは絞れるじゃないですか。難しい話じゃなくて、単純に物理的にそうなるのは必然なんです。それを忘れて、無理やりヒールカップだけその形にしようとしたって革が反発して形が崩れちゃうのは当たり前なんです。天然のものだから個体差があって、形が変わっちゃう…なんてことはないんです。
たとえばですね、本当、近所の街料理屋に入ったって、いつだって同じ味で出てくるわけじゃないですか。だからうちの規格に合わない商品が仕上がってきたときは、職人にこういう風に言うんです。『うちの靴は餃子にすら劣るよ、ちゃんとした餃子を作るのには、きちんと分量とか、順番があって作っているんだよ』って。」
コンフォルマのヒールカップの基準は厳格で、最高峰だ。
コンフォルマのこだわり
靴製造の原理原則、「履きやすい靴」の製造はもちろんですが、ただ履きやすい靴を作っているだけではありません。
「先ほども言いましたけれ
ど、靴ならカッコよくなければ。そこはドイツの靴とはちょっと違うかも。アッパーの革はもちろんのことですが、ハトメ、紐に至るまでこだわっていますね。そのパーツひとつでさえ、日本製でなく、全部イタリア製の別注です。一切妥協のない靴にしたいんです。イタリアの見本市に行き、情報を集め、時にはイタリアの山奥の工場まで行きました。そうして見つけ出した世界最高のメゾンブランドも使っている工場のものを別注しています。
もちろんアッパー素材の革もこだわっていますよ。革素材一番の魅力は、経年変化です。今日私が履いているベジタブルタンニンレザーのスニーカーは5年履いていますが、すごくいい雰囲気に仕上がっていますよ。」
松尾氏のベジタブルタンニンレザーのスニーカー
神は細部に宿る
「ほかにもですね、革はこだわってるんですよ。たとえばエレファントレザー。丈夫で革も適度に分厚く、それでいて唯一無二の雰囲気。スニーカーにはもってこいなんです。でも、エレファントレザーはご想像の通りそう簡単に手には入りません。でも、最高の靴を作るために、このこだわりは捨てません。これからもコンフォルマは、全ての工程・部材に細部にこだわって、より良い靴を作ります。誰が見ても片手落ちではないな、と思わせる靴を作っていきますよ。
履き心地と見た目、一流と呼ばれるブランドというのは、その両方を高い次元でまとめていると私は思います。神は細部に宿る、っていうじゃないですか」
松尾氏曰く「ゾウ革は金がいくらあっても、タイミングがあわなければ買えない本当に希少な革」
まとめ
コンフォルマをネットで調べると、表面的には、一見コンフォートシューズブランドのように思えるかもしれません。しかし、その内実を知ると、ただのコンフォートシューズブランドではなく、ドレスシューズ畑から出てきた人の作る、こだわり抜いた靴であるということがよくわかります。
安価なスニーカーに起こりがちな、妙な靴擦れも、疲れも起きず、それでいて見た目の部分でもこだわり抜いた、日本が誇る最高峰レザースニーカーなのです。