セントラル/海外ブランドも認めた技術力をもつ浅草の老舗ファクトリーが挑んだオリジナル
セントラル 「2012年のデビュー作4モデル」
セントラルの若手2名とWFGの若手2名がタッグを組んで発表したデビュー作。セントラルのスタッフ2名が退社するとともにブランド自体は残念ながら販売終了となってしまったが、そのうち1名は現在、JOEWORKSというブランドで素晴らしい靴をつくっている。発売当時の価格は5万4600円だった。写真はWFGカタログより。
長らく陰ながら、日本の高級紳士靴の世界を支え続けてきた真なる実力者
東京・浅草地区は江戸時代から続く、製革産業と皮革製品の生産が盛んなエリアでした。そのこともあって、現在でも靴や鞄、革小物を生産するメーカーや工房が数多く集まっています。ここで紹介するセントラルは、そうした浅草の靴づくりを支え続けているセントラル靴というメーカーが展開していたオリジナルブランドです。
セントラル靴の創業は、第二次大戦終結からほどない1949(昭和24)年のこと。そこから現在まで一貫して紳士靴の製造に徹しており、少人数体制ながら、その技術力は国内随一と評されるまでになりました。聞けば、英国ノーサンプトンの某最高級ブランドの社長がセントラル靴の製品を目にして「これは本当にメイド・イン・ジャパンなのか?」と驚いただとか、米国の某シューズブランドの社長が来日時にセントラル靴を訪問し、その丁寧な靴作りを称賛したなどという逸話があるほどです。
同社の靴作りでは職人の手仕事が多用されています。たとえば、吊り込み(木型を使い、アッパーの革を型付けする作業)では、つま先と踵(かかと)には機械を用いるものの、その他はハンドラスティング(手作業による吊り込みのこと)としており、そのため、アッパーを木型の微妙な曲線に適ったフォルムにできるのです(製品によっては、つま先や踵もハンドラスティングとする場合があるとのこと)。また、製法はグッドイヤーを得意としており、このうちの、いわゆる九分仕立て(すくい縫いは手縫いで、履き心地をさほど左右しない出し縫いは機械縫いとするウェルト製法のこと)もこなす技術力をもっているのも同社の特徴です。
満を持して立ち上げたオリジナルブランドは靴通にとって“見どころ”満載の逸品揃い
こうした国内屈指の技術力が高く評価され、某高級紳士靴ブランドなどのさまざまなOEM製品を手掛けてきたセントラル靴ですが、新たな展開を図るべく、創業以来、初となるオリジナルブランドの立ち上げを決意。このとき、協業したのがワールド フットウェア ギャラリーでした。両社の若いスタッフたちが中心となってブランドコンセプトや商品開発などを検討し、サンプルシューズをもとに改良を図るなどの試行錯誤を経たのち、「セントラル」の名を冠するシューズブランドが2012年秋、ワールド フットウェア ギャラリーにてデビューを果したのです。
そのファーストコレクションは、内羽根がアデレード(竪琴形)のキャップトウオックスフォード、トウにメダリオンが施され、アッパー側面にスキンステッチが取り入れられたホールカットプレーントウ、同じくトウにメダリオンをもつサイドエラスティックプレーントウ、プレーントウのサイドモンクストラップの計4モデル構成。いずれもが英国靴の伝統に寄りながらもひとクセある意匠の、コダワリを感じさせる顔ぶれとなりました。
木型は、トウがセミスクエアシルエットの細身のもの。ワールド フットウェア ギャラリーを贔屓にする靴通らが大いに好むであろう、エレガントでありながら色気を感じさせる洗練された木型です。また、レザーソールは出し縫いを隠すヒドゥンチャネル仕様とし、十八番のハンドラスティングによってウエストは強烈に細く絞り込まれ、そこにフィドルバック(バイオリンの後胴のように、ウエスト中央部に背骨のような稜線が施された立体形状のこと)を取り入れるなど、セントラル靴だからこその高い技術力がうかがえるコレクションとなりました。
セントラルは5万円台~6万円台という良心的な価格設定もあって、大変好評を博したのですが、諸事情により、ほどなく展開を終了してしまいました。が、短い期間ではあったものの、このときの取り組みがセントラル社の卓越した技術力を世に知らしめ、その真価を靴好きたちに認知させるきっかけとなったのは確かです。
「日本のOEMメーカーもオリジナルで、海外に積極的に進出して欲しいですね」 by WFG スタッフ
「日本の某人気ブランドや某高級靴チェーンのOEMなどを手がけてきた実力派ファクトリーがオリジナルブランドを立ち上げるにあたり、そのデビューをお手伝いしました。ブランド名をあえて社名と同じにし、メーカーのアイデンティティが主張できるものにしたのですが、のちに取引先からセントラル靴さんに不満がいったと聞きました。私たちにすれば『なぜセントラルの名前を表に出してはいけないの?』という気持ちです。日本のファクトリーは良質なオリジナル製品をどんどん作って、メイド・イン・ジャパンをもっと積極的に主張して海外に進出していくべきだと考えているからです」
以上、執筆:雑誌ライター 山田純貴