さて、前回の続きです。鹿革の靴の話を続けましょう。
前回申し上げたとおり、鹿革は非常に希少なものとなっています。
要因はいくつかあります。
- 牛・豚・鶏などと比べ、鹿肉の需要量は低いという点。
- なぜ鹿革の多くを起毛仕立てにするか?というと、雄の鹿が喧嘩をする際に角で互いを傷つけあうため、良質な状態で革を確保することが難しいという点。
- 猟銃で駆除された鹿は、散弾銃によって穴だらけになり、製品に使うための「革」に鞣すことが難しいという点。
- 3のようなことがないために、こめかみを狙い撃ちにするそうですが(苦しませないようするためにも)、撃たれた鹿が力を失って山の斜面を転がり落ちたりすると、表皮が傷だらけになり、それもまた「革」として使えなくなるという点。
- 鹿革を鞣すタンナーがそもそも少ないという点
鹿による食害などで、駆除されるニュースはたびたび話題にあがりますが、なぜその鹿で革が作られないのか?とりわけ靴において、流通量が少ないわけは、こういったところに理由があります。
そんな珍しい鹿の革ですが、神宮前本店で常時オーダーを承っているHIROSHI ARAIでは、ディアスエードでオーダーを承ることが可能です。
先日オーダー頂いたお客様がいらしたので、本日はそのご紹介です。
こちらが先日お客様にお納めしたディアスエードのダービーシューズです。
原皮は蝦夷鹿。鞣したタンナーも日本で、最初から最後まで日本製の純国産ディアスエードです。
現在、鹿革の靴用の原皮は主にニュージーランドから輸入するようです。
つい何年か前にもクロケット&ジョーンズがディアスエードのローファーを限定販売していましたが、これも元となる原皮はニュージーランドの鹿だったそうで、スコットランドのタンナーで鞣したそうです。またこのタンナーが現在では廃業となってしまっていることが鹿革の靴の希少性を高めているのです。
その一般的な流れと比較して、HIROSHI ARAIの使用する鹿スエードは、蝦夷鹿を使い、姫路のタンナーで革をなめすという全てが純国産。
また猟師も革まで使えるように、という人間の手前勝手な理由だけで駆除するわけではありません。
人間の都合で駆除するからには、なるべく苦しませることなく。そして頂いた命をできる限り無駄にすることなく。
配慮を重ねて狩猟を行います。
その結果として、このスエードが出来上がります。
サスティナブルですよね。時代に即した流れと思われないでしょうか?私はとても好感がもてます。
往年のエドワードグリーンやトリッカーズに使われていたような鹿革に比べると、さらに毛足が長く、フワフワした見た目になっています。柔らかさそのものは健在、むしろこちらのほうが軽く柔らかい印象です。
経年変化も申し分ない状態でした(お客様がお受け取りの際にチャッカブーツの方をお召になられていました。
古いスマホのカメラ画質で恐縮です汗
実際は同じ色味となっております。
お召しになられているお客様も「全く靴擦れが起きない最高の素材だよ!!」と、この2足目のダービーもとても喜んでおられました。
O様ご注文ありがとうございました。ぜひ、ディアスエードの柔らかさをご堪能下さい!鹿革の靴を所有している私としても、この柔らかさに勝る素材はないと思っています。
そして牛のスエードにはない、見た目の柔らかさ、独特な高貴な雰囲気をぜひHIROSHI ARAIオーダーを通じて感じてみて頂きたく思います。
さて、今回良い機会であったので調べてみると、日本でも害獣駆除された鹿を食肉、さらに残った皮を鞣して、皮革製品に仕上げるタンナーは日本各地に点在しています。
WFGが日頃取り扱う革靴は、革の品質に目を光らせてスタッフも注視していますが、単に革の質の良し悪しだけでなく、こうした革が作られるまでの背景にも目を向けて俯瞰して1つの製品に見つめ直すことも今まで以上に求められる時代になっていることを忘れないよう努めて参ります。