一方から針を入れた後、その反対側へは針を貫通させず、革の内部のみを縫い通す…
表から針を入れて表に通しているわけですが、内部のみを縫いとおすので表面には縫い糸が出てきません。その代わり縫った跡が紋様のように浮かび上がります。
この特殊で高難度の縫製をスキンステッチといいます。
特にUチップのつま先に施されるスキンステッチは「ライトアングルステッチ」と呼ばれ、靴好きを虜にする意匠のひとつとなっています。
このスタイルで世界的にも圧倒的なネームバリューを持つのが、エドワードグリーンのDOVERです。
そして多くのブランドでこのDOVERに負けじとスキンステッチのUチップを作っています。
こちらの写真のスキンステッチUチップの靴は、PERFETTOのOCEANUSです。
スキンステッチの部分をとっても、エドワードグリーンのDOVERに負けないクオリティがあると思います。
お値段は日本ブランド価格なので、非常にお手頃です。匠の技、日本企業のスピリットが感じられて、筆者が好きなモデルのひとつです。
「スキンステッチ」と「シャドウステッチ」
さて、ここからは、スキンステッチとシャドウステッチの違いを少しお話させていただきます。
まずスキンステッチですが、暗黙の了解的、狭義的に「Uチップのつま先に施される縫い目を表面に出さない縫合部分」を特に差すことが多いです。
一方、シャドウステッチというものがありますが、こちらもスキンステッチ同様に縫い糸を表面に出さないという点では全く一緒のものです。
技術的な違い
似たようなものですが、技術的にはスキンステッチとシャドウステッチは違うものと捉えられます。
それはシャドウステッチは、靴を成型するうえで、実際に縫い合わせなくてもいい部分に施すことで、デザインの役目を果たすように使われるという点です。
こちらの写真のシャドウステッチの靴はPERFETTOのQUILINALEというモデルです。
おわかりになりますでしょうか?実はこちらはホールカットの靴なので、革同士を接合していません。
ですが、このようにシャドウステッチを施すことで、通常のオックスフォードのように革を接合したときにでるステッチラインをあえて表現するというアーティスティックな1足に仕上げた1足です。
美しいだけでなく、技術力の高さも垣間見ることができる靴好きにはたまらない靴になっています。
このQUIRINALEのように、シャドウステッチは革と革を縫合する必要がないのです。
一方、スキンステッチは革と革を縫合しつつ、縫い糸を表に出さないという難しい要件をクリアしなければならないので、針を通す場所が重要になります。ゆえにスキンステッチのほうが技術的に難しいといわれることがあります。
シャドウステッチは縫合しない分、スキンステッチのように革のパーツを見極めるほどシビアにならずともいいというわけです。
なので、DOVERだけでなく、Church'sのShannonのように羽根の部分を縫い合わせているあのステッチも「スキンステッチ」です。
今回のブログ記事を書くにあたって、筆者もこの「スキンステッチ」と「シャドウステッチ」の明確な差があるのか、PERFETTOを主宰するビナセーコー社にメーカー視点での見解を伺いました。
そして以下のように回答をいただきました。
「確かにシャドウステッチをスキンステッチといっても、間違いというわけではないと思います。そして、もちろん私たちはシャドウステッチのことをスキンステッチ、スキンステッチのことをシャドウステッチとお客様が言っても、意味は汲み取れますし、通じることなので、オーダーをいただく場合に、呼称の違いによって大きなトラブルが起きることもありません。
ですが、意識しないうちに、DOVER型のUチップに施されたものを特に差してスキンステッチと言って、シャドウステッチと区別している感じはありますね」
なるほど、メーカーは明確な差はないと感じているようです。
ですが、これはビナセーコー社の卓越した技術力があるからであるとも私たちは感じます。
実際に某ブランドでもシャドウステッチはそこそこ奇麗に仕上げても、スキンステッチがなかなか奇麗に仕上げられないというケースがあるのです。
このように「スキンステッチ」と「シャドウステッチ」は厳密には少し違うものですが、私たちスタッフも店頭でスキンステッチをシャドウステッチと言われても、その意味はわかりますし、会話は成立します。
革靴の世界に限った話ではありませんが、特に私たちアパレルの世界というのは「呼称」に対してこだわることはマニアックになればマニアックになるほど起こることです。
それこそ今回の話で言えば、スキンステッチUチップのことを「ライトアングルステッチ」という呼称にこだわったりということがあったりなかったり…。
こだわって呼称はすることもあるのですが、実際に接客をしていて、大きな問題になったことは、思い返しても一切ありません。
何とも不思議ですよね。