誰が「伝統」を守るのか

メンズドレスウェアの世界では「伝統的」であることを重んじます。

 

「伝統的である」ということはすなわち高品質であり、私たちが標榜する言葉を用いれば、「時を越えるエレガンス」を持っているということ。

時代性に侵食されない完成されたスタイルを指し示します。

 

しかし、「伝統的」という言葉を用いる割には、その言葉をご都合主義的に利用するだけ利用して、形骸化しているブランドというものは、世の中たくさんあります。

なぜ、「伝統的」という言葉が形骸化してしまうかというと、「伝統的」に愚直に向き合い実現することは、安易な新しいものを生み出すことよりも、はるかに難しく、クリエイティブな要素が求められるため、という一面があることは皆さんも容易に考えに至ることかと思います。

 

その中でアメリカのブルックスブラザーズは、時代の波にもまれながらも、常に「伝統的」な製品を提供し続けるトラッドブランドの砦として、優良な製品を世に届け続けていたと筆者は思います。

今なおニューヨークでネクタイやシャツを作っています。

また、アメリカ製にこだわる一方で、イングランド、スコットランド、イタリアなどに優良メーカーがあるならば、そのメーカーに生産依頼をしていた製品もありました。

写真は筆者私物のアトキンソン製のブルックスブラザーズのネクタイです。ウール50%、シルク50%のいわゆるアイリッシュポプリンのネクタイ。アトキンソンもまだ現存しているはずですが、今では市場ではめっきり見かけなくなってしまいました。ウールが入ることでシワになりづらく、復元性に富んだネクタイで、素晴らしいアイテムです。

 

 

靴屋ですから、靴の話でもブルックスブラザーズは忘れてはいけませんね。

なんといっても、タッセルローファーを広めた元祖であるのはブルックスブラザーズです。

オールデンで製造をしていました。ブルックスブラザーズのタッセルローファーには、ヒールにフォクシングステッチが施されており、それがアイコニックな靴でした。単なるオールデン製のタッセルローファーでなく、このブルックスブラザーズのタッセルローファーじゃないとダメなんだ、というこだわりをお持ちのお客様達とも今まで何度かお話したことがあります。

 

タッセルローファーに話は限りません。例えば、Made in Englandのブルックスブラザーズもありました。製造はチャーチ、アルフレッド・サージェント、クロケット&ジョーンズといった優良なメーカーが担っていましたので、やはり品質もピカイチでした。革靴の世界に与えた影響も計り知れないブランドなのです。

 

1818年創業の、そのブルックスブラザーズが破綻したというニュースはとても悲しいものでした。

コロナウイルスが甚大な影響を与えたのは火を見るよりも明らかですが、それ以上に人間の気持ちの有り様が変わってしまっているのではないかと思います。

 

ちょっとした日へのおでかけに良いものを身に着けてみる、毎日の仕事に向かう自分を奮い立たせる良いものを身に着けてみる…。

 

そんな日々の生活のちょっとした、でも大切な気持ちの変化すら、私たちは手放すような時代へとなっていくのでしょうか。

伝統的なスタイルは、時にシックであるとも言われますが、シックには「おしゃれである」「粋である」という意味を表す中に、「上品である」「落ち着いている」「大人らしい」という意味も含まれています。

 

大げさではなく、このブランドにひとつの「区切り」がつくような事態になったことは、人間がひとつ「上品さ」「落ち着き」を捨て去ってしまったことの象徴のように私には思えてなりません。

  

弊社は日本の片隅に3店舗しかない、小さな会社ではありますが、「伝統的」の灯りを絶やさぬように尽力していきたいと思います。