ホールカットの立ち位置

ホールカットというスタイルの靴があります。

内容は至極シンプルなもので、一枚の革で形成されている革靴を「ホールカット」と呼びます。

 

多くの場合、プレーンのデザインをとりますが、趣向を凝らしてステッチや穴飾りだけ施すこともあります。

一枚の革で靴の形に成型するホールカットは、あらゆる点でメーカー泣かせの靴でもあります。

 

①製造が難しいという点

一枚の革を靴の形になるように木型に釣込んでいくのは、技術力のないメーカーではなしえません。

 

②厳選された革の使用を求められる点

通常多くの革靴は何パーツかの縫合によって形成されますが、ホールカットはまるまる一枚の大きな革を使わなければならないため、原材料の革を用意するだけで大変であるのに、製造に失敗すると革一枚を無駄にすることになります。

いくら一枚の革で靴を作っても、その革自体に傷や血筋がついていると、美しい靴になりません。特にプレーンで仕上げる場合には、傷や血筋は目立ちますから、ホールカットの価値を大きく損ねます。

原材料の革を用意するときに、綺麗な部分だけを職人が選定しなければならないため、これだけでも大きな手間がかかります。

 

③美しいラストで作られなければならないという点

ホールカットは一枚革のため、ラストの形を色濃く反映します。ラストが美しくなければ、靴のそのものが美しく見えません。ホールカットを製造する場合は使用するラストの選定・製造をしなければならないのです。

 

これだけ多くの困難・制約を乗り越えて初めてホールカットは私たちの目の前に登場します。

こういった背景から、革靴好きの方からはホールカットシューズの存在そのものが「職人の技術力と英知、ハイグレード素材の結集」であると特に珍重されます。

 

ホールカットの立ち位置

ここからいったん、ホールカット≒プレーンスタイルとして話を進めさせていただきます。

ここまで製造に苦労して生まれるホールカットですが、内羽根のプレーン、ストレートチップといった靴ほど立ち位置が明確になっていません。

 

近年では結婚式に用いたりすることがありますし、タキシードなどに合わせてお召しになるケースもあります。

プレーンですから、見た目としても何らフォーマルな場を崩すこともなさそうです。

 

海外のサイトを見ても、実に曖昧で、フォーマルシーンに履くことのできる靴だとする場合もあれば、ビジネスシーンを主としたシーンに適すると書いてあるサイトもあります。

 

ただし、やはり多くは「ストレートチップ、プレーントウといった靴を揃えた上で、変化をつけたいときに使ってみる靴。ユニークさを演出する」といった勧めになっています。

 

いつもお世話になっているジョン・ロブ・ロンドンの見解も見てみましょう。

 

This lace shoe is wholecut with five lace holes. It is completely plain and is normally made for smart occasions.

JOHN LOBB LONDON HPより

 

smart occasionsがどこまでのシーンを想定しているのかが不明瞭なのですが、フォーマルシーン(冠婚葬祭)までは想定していない様子です。

 

私共専門店の人間としても、フォーマルシューズをお探しなのであれば、やはり内羽根のプレーントウ、ストレートチップ、外羽根のプレーントウから揃えていくことを強くお勧め致します。

 

現代は選択肢・価値観が多種多様になっています。

それゆえにホールカットの靴をフォーマルシューズとしてチョイスしたくなる心理も理解しております。

 

ですが、やはり基本を押さえた上でホールカットをお召しになるのと、いきなりホールカットをチョイスするのとではその方の「見え方」には大きな差がつきます。

 

ストレートチップ、プレーントウをお持ちであり、遊びが許されるという場であるという点が揃ったときは、お客様のライフスタイルをお聞きした上で、様々なご提案をさせて頂きます。

オーダー会の時などを利用して、エナメルのホールカットというのも実に面白い選択だと思います。

 

もちろんビジネスシーンではぜひお召し頂きたい靴のひとつになります。

シンプルな靴ですから、履き手のパーソナリティを奥から引っ張り出してくるような、優秀で控えめな従者のような靴です。

色、柄でなく、シンプルに自分を表現したい方にうってつけです。