コンプレックスとピッチドヒールの小話

銀幕の大スター、ハンフリー・ボガート。

 

筆者は彼が出演した数ある映画の中でも、レイモンド・チャンドラーが生み出したハードボイルド探偵、フィリップ・マーロウを演じた「三つ数えろ」が好きです。のちに4人目の妻となるローレン・バコールをさりげなく助ける姿がカッコいい!

そう、いちいち男臭くてカッコいいんです。「男臭さ」という言葉がほぼ死語になってしまった今、この時代を駆け抜けた映画スターのような俳優はもう出てこないのかもしれません。

 

さて、ハンフリー・ボガートといえば、ファッションの関係でいえば忘れられないのが、「カサブランカ」ですよね。

アクアスキュータムが1930年に発表したトレンチコート、KINGSWAYを愛用していたそうです。

カサブランカでもこのトレンチコートが際立っていましたね。

 

さて、このカサブランカでは、ボガートのあるコンプレックスも際立つのです。

 

彼が抱えていたコンプレックスと靴の小話をここで少々したいと思います。

 

カサブランカにおいて、物語のヒロイン、イルザ・ラントを演じたイングリッド・バーグマンは身長175センチだったそうです。

 

それに対し、ハンフリー・ボガートは173センチ。日本人の目線からすると、決して小柄ではない身長ですが、ハリウッドの世界では少々背が足りないと感じていたようで、彼が秘めていた身長に対するコンプレックスを裏付ける写真がいくつか残されています。

 

まず、カサブランカではより逞しい男性像を演出するためなのか、イングリッド・バーグマンよりも上背があるように見せることを目的として、靴にかさまし用の台を靴に巻き付けていたようです。

これはかなりオーバーですが…

 

 

普段から身長を少しでも高く見えるようにすることには気を配っていたようで、

急角度に仕立てたピッチドヒールの靴を愛用していたようです。

 

単純にヒールリフトを積み重ねただけでは見た目が鈍重な野暮ったい靴になってしまうために、ヒールのリフトを重ねて高さを出すときには、接地面に向けてテーパードをかけるピッチドヒールが用いられることが多いのです。

 

ヒールリフトを接地面に向かって細くテーパードすることで、より華奢に美しくなります。ピッチドヒールは大きさの違うヒールを一枚一枚積み上げていく必要がありますので、通常のヒールリフトを作成するよりもも手間がかかります。

よって、見た目でもハッキリとわかりやすい分、高級靴の意匠として名高いのです。

今では高級靴の意匠として残されているピッチドヒールですが、ボガートの例の用にコンプレックスを払拭させるために使う人もいたようです。

 

男性の服装には何一つ無駄なディテールはなく、意味・工夫・知恵が必ず込められているといわれますが、その良い例であると思います。